こだわり⑧ 均一で健全な生育を可能にする、究極の溝切り の 3回目

⑧-③ 『自由に水の流れをデザインできる能力を持った田』

 前回、当家の尋常ではない数の溝切りについてお話させていただきました。

今回はこの『溝』が発揮するすばらしい能力についてお話させていただきます。

 

 当家の溝は『田の中にきれいに行き渡った水路』なのです。

 排水のための設備ではなく、水をきれいに行き渡らせるための用水路として働いてくれます。この水路のおかげで、当家の田は水の入口から、その反対側の奥の隅に至るまで、その『全面で均一な状態を作り出せる』のです。

 

 昼間の田は水が加熱され、まるで温泉に入っているかのように暖かくなります。その温度を冷やすため、水がいくらでもある地域はどんどん水を入れて掛け流すのですが、『限りある水資源を大切にしよう』という運動の元、過剰な掛け流しは控えるようになってきており、節水しつつうまく冷やさねばならない状況があります。そもそも大量に掛け流したとしても、通常の田では水の入口付近は温度が低く奥に行くにつれ温度が高くなり、田の中にはっきりとムラができてしまいます。実り的にもはっきりとした違いができます。ましてや『入口から反対側の、奥の隅』などは、いくら掛け流しをしていても全く水の入れ替わりが起きず、葉が焼けてしまうことも多いのです。

 

しかし当家の田んぼは違います。

 

 お風呂の湯を沸かすと上に熱い湯が上がってきますよね?熱い水は軽く、冷たい水は重いのです。

 通常の田ではいくら深水管理をしてもその深さは知れていますから、掛け流しで勢いよく水を入れれば入れるほど元の水と混じり、ぬるくなったものが順に奥へと押していくので、どうしても奥が熱くなっていきます。

 

 しかし、当家の深く大きな『溝水路』はかなりの深さがあるため、水の入口から入った冷たく重い水は水路の深い部分を伝って奥まで浸透し、上層表面の熱い水とは交じり合いません。『河口付近の汽水域の川』のように上層下層でくっきりと境目ができて交じり合わずに、稲の根を有効に冷やしてくれ、また有効に常に新しい新鮮な水を優先的に根に供給できるのです。しかも『横向きに切られた4本の溝』のおかげで、『格子状の構造』になり、その交差点に土をおいて所々ふさいで行くことで、まるでコックを開閉するように水の流れを完全にコントロールできるのです。この

 

『自由に水の流れをデザインできる能力を持った田』

 

のおかげで、少量の水の供給でも『まず奥の隅に最初に冷たい水を届け』てそこから手前に冷水を戻し、下から全体を押し上げることで、『熱くなった水だけを排出する』という、『節水しつつも素晴らしい理想の水管理ができる』ようになったのです。

 もし当家の地域が冷たい水をまさに『湯水のように』使いまくれる地域だったらこんな努力はしようとも思わなかでしょう。

 しかしある意味環境に恵まれなかったおかげで努力をする気になり、『単純な冷水掛け流しに負けない能力』を持った田を作り出すことができたこと、『逆境に感謝』をしています。

 

 このように、『尋常ではない溝切り』を実施する理由は、『排水のため』ではなく『給水のため』です。

 しかし『給水のため』に作り上げたこの水路は当然『排水のため』にも素晴らしい能力を発揮してくれます。

 秋の稲刈りシーズンになると太陽の能力もかげりを見せ、気温も下がりますから、土の表面から自然に土が乾いていくのには相当時間がかかります。そのため溝切りを実施していない田はかなり早めに落水をしようとします。

 そうすると登熟期に本当は水が欲しかった稲が、水不足で十分に登熟をむかえきれずに終わってしまうということがよくあります。当家の田は『尋常ではない溝切り』のおかげでまるで『ざるで水を切るかの如く』にすぐにきれいに落水できるため、逆に

 

『稲刈りの直前まで落水をせずに水を保つことができる』のです。

 

 こうして、最後の最後まで『デザイン通りの理想の水管理ができる』ことが、地獄の作業を乗り越えるエネルギーになっているのです。

これからも体の続く限りがんばりたいと思います。

 

 今回で、この『溝切り』のお話は終了です。次回から、秋冬に行う土作りについてお話させていただきます。

 

 

 

★稲作用語★ 米粒用語

『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。

『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。

『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。

『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。

『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。

『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。

     精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。

『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)

    その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。

 

 ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。

★稲作用語★ 農作業用語 その他

刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。

『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。

登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。

⑧-③ 『自由に水の流れをデザインできる能力を持った田』