前回、こだわりの36時間乾燥についてお話しました。
今回は、その乾燥に使われる乾燥機の盲点、
『意外なムラの素』
についてお話しさせていただきます。
乾燥機は大きな籾タンクの中に貯蔵された籾を、タンクの下から順に少しずつ落下させ、乾燥熱風と触れ合わせる『乾燥層』に落とし込み、落ちた籾をもう一度タンク上部にエレベータで移動させ、全体をゆっくり循環させながら乾燥させていく機械です。各社製品は乾燥ムラが生じにくいように、『乾燥層』を通過する籾たちが、重なり合わないよう一粒ずつ落下させるなどの工夫をしてくれており、
使い方さえ間違えなければ(←ここが問題)
よりムラの少ない乾燥を実現できるように作られています。
しかし、通常の農家さんの使い方ははたして『ムラの少ない乾燥』を実施するために適した操作をしているのでしょうか?多くの場合、その答えは『ノー』です。乾燥機の操作にはとにかく色々な落とし穴が潜んでいるのです。
良く無い点の原因の中心にあるのはやはり『効率化』です。通常稲刈り作業は田んぼでコンバインという『稲刈り脱穀機』を使って刈り取った籾を、グレンタンクという籾を搬送するタンク等を載せたトラックに積み込み、それを作業場内の乾燥機に搬入します。乾燥機に刈り取ってきた籾を入れる作業を『張り込み』といい、乾燥機内の貯蔵タンクの上部に向けて、穀物エレベータで持ち上げられた籾をどんどん投入していきます。しかし大抵の場合は一度の張り込みでタンクがいっぱいになるわけではなく、トラックによる搬送を何度か繰り返して乾燥機のタンクがいっぱいになります。
ここで数々の良く無い作業に遭遇します
<1>まずは第一便の搬送・張り込みの後です。乾燥を急ぎたい農家の人は、この時点で乾燥機のバーナーに点火をして乾燥作業をスタートします。当家からは考えられませんが、圧倒的に多数の農家さんがこういう作業をしています。当然第2便のトラックが帰ってくるまでの間に乾燥は大幅に進みます(ここで乾燥機タンク内の第1便のよく乾いた籾の層を『第1層』と呼ぶことにします。以下第2便の層は『第2層』・・・)。この結果乾燥ムラができることは誰の目にも明らかです。当家ではこの時、第1層には点火を致しません。ただこのままで置いておくと『蒸れ』が生じ、良く無い変質を起こしますので、蒸れ防止に『乾燥作業を伴わない循環』を行います。下の籾を少しずつ落としてはエレベータで上に順に上げて常に動かしてやることで『蒸れ』を防ぎます。これによりほんの少しは乾燥が進みますが、乾燥の度合いのズレは最小限にとどめることができます。
<2>次に第2便以降の『追加張り込み』の際、乾燥機の致命的な構造上の問題点に突き当たります。乾燥機は機械の詰まり等を防止する目的で、追加の張り込みをする際には、『先に搬入されていた第1層の循環を完全に停止』するのです。つまり、通常は『第1層と第2層は完全に分離』されてしまい、
『第1層の上に第2層が乗っかった形』
が出来上がります。<1>において第1層から乾燥操作を開始してしまった場合は、乾燥機が一巡する中でよく乾いた籾の層とまだあまり乾いていない層とが乾燥終了までくっきりと残ってしまいます。しかも第3便以降搬入する際はもっと複雑です。第3便張り込みの際、ちょうど第1層と第2層の切れ目で乾燥機を止めるということが、一般の生産者には不可能で(<3>の内容のため)、第1層の途中のどこかに第3層が割り込むか(乾燥機内は①③①②層の4層構造になる)、第2層の途中のどこかに第3層が割り込むか(乾燥機内は②③②①の4層構造になる)といった非常に複雑かつ大幅なムラを抱えたまま乾燥終了を迎えます。しかしこのことにあまり気付いていない生産者も多いのです。
<3>その理由は、知らない生産者も多い
乾燥機の親切機能(本当に親切?)
による落とし穴なのです。乾燥機では乾燥途中の籾の水分量をリアルタイムで表示してくれています。しかし多くの機種において、この数値は本当のリアルタイムの測定値ではないのです。<1>のように操作する人も多い乾燥機を、メーカー自身が安全設計で<2>のように層が分離するように作り上げているため、本当にリアルタイムの表示をすると乾燥機内の『籾が1周する間に水分値の値は大幅に増えたり減ったり』してしまっていて、いったい今乾燥がどのくらい進んでいるのかよくわからないといった状況に陥るのです。それを防ぐため機械に表示されている水分量は自動測定した直近の数回(5~6回くらいの機種が多いと聞きます)の平均を表示するものが多いのです。このことにより、平均で出されたリアルタイム表示でさえも少々値の上下はしながらも、実際の乾燥ムラほど大きな差を表示されることはないために、多くの生産者は<1>のような操作をしていても、そんなに大したムラを感じることなく安心して(?)作業を続けているのです。
この乾燥ムラは実は大変なものです。共同作業場の多くの乾燥機において乾燥終了間近の乾燥機内の籾の水分量をこまめにサンプリングし、手作業によって水分計で測定した結果、乾燥機一周分の中に
『2%以上』の乾燥ムラが存在する
ものがほとんどでした。でも機械の表示欄には多くても『0.2%程度』の上下しか表示されていませんでした。これが多くの生産者が知らない実態なのです。
次回は乾燥ムラを無くすための当家のこだわりについてお話したいと思います。
『籾』(もみ)… お米の周りにまだ硬いからがついた状態の粒のことです。
『籾殻』(もみがら)…籾の周りの「から」の部分のことです。
『玄米』(げんまい)…籾から籾殻を取り除いた状態の米粒のことです。
『精米』(せいまい)…玄米の周りにある薄皮部や胚芽などを取り除く作業のことです。
『糠』(ぬか)…玄米(本当は穀物全般)を精米した際に取り除かれて出てきた、薄皮や胚芽の粉。
『白米』(はくまい)…玄米を精米し、糠や胚芽が取り除かれた白い米粒のことです。
精米して出来た白米のことを、単に『精米』又は『精白米』と呼ぶこともあります。
『穂(稲穂)』(ほ/いなほ)…稲の花が咲き(そのうち写真で紹介します)
その後『籾』になったものが房のようにいくつも連なって付いているものです。
ブドウ(巨峰のような)と比べてみると、『房』→『稲穂』、『一粒』→『籾』、『外の皮』→『籾殻』、『皮をむいた中身』(果肉の周りに紫っぽい部分がついている)→『玄米』、『果肉の内側』(薄緑の部分)→『白米』といった感じです。あくまでも個人的イメージです。
『刈り旬』(かりしゅん)… ちょうど良い刈り頃のことです。
『刈り遅れ』(かりおくれ)…「刈り旬」を逃して刈る時期が遅れてしまった状態のことです。
『登熟』(とうじゅく)…本来しっかりと熟した「完熟」に向け熟していく過程のことですが、「完熟した状態」を「しっかり登熟した状態」のように、完熟と同義語的ニュアンスで使用することもあります。
こだわり① 究極のゆっくり乾燥 の先頭に戻る